「あーあ、早く帰って来ないかなぁ・・・」
膝を抱えてその上に顎を置いてため息をつく。
今日目が覚めて一番最初に見たのは・・・ちょっと心配そうな顔をした悟浄のドアップだった。
目が合うと少し笑っていつもみたいにポンポンって頭を撫でてから一言呟いた。
「んじゃちょっと行ってくっから・・・留守番ヨロシクな?」
「?」
次に悟浄と入れ替わるように八戒が目の前にしゃがみ込んで、あたしの顔を覗きこむようにしてじっと見つめた。
「すぐに戻ってきますから待っていて下さいね。」
「???」
頭に幾つも「?」マークを浮かべ首を傾げている間に、二人は戸口に立っていた誰かに声を掛けてそのまま出て行ってしまった。
だんだん頭がハッキリしてきたあたしは、二人が声を掛けた人のいる方へ視線を向ける。
「・・・起きたか。」
「・・・うん・・・?」
・・・って何で三蔵があたしの部屋にいるのー!?と思って回りを見渡すといつもと様子が違う。
もしかしてここは・・・三蔵のお寺?
驚いておろおろしているあたしに、三蔵はこれ以上無いくらい手短に状況を説明してくれた。
「あいつ等が戻るまで此処から出るんじゃねぇ。」
「・・・は?」
通訳すると、三蔵の依頼を受けて悟浄と八戒は仕事に出掛けたから帰って来るまではここ(寺)にいろとそう言う訳かな?
「ほぉ・・・大分言語理解力ついたじゃねぇか。」
口に咥えていたタバコを指に持ち替えてニヤリと笑う三蔵の表情は、悟浄の不敵な笑みとはまた違って・・・見慣れないその表情に自然と胸がドキドキしてしちゃう。
三蔵と同じ空間にいると心臓に悪いなぁ。
「えっと、外には出てもいいの?」
「この部屋の窓の外ならな。一応此処は寺で女人禁制らしいからな。」
あ、そっか・・・ってそう言ってる三蔵の手にはタバコ、そして机の上には灰皿があってそこには吸殻が山盛り・・・それはいいのか!?
「・・・何か文句あるのか?」
机をじっと見ていた視線の意味を悟ったのか、三蔵がじろりとこっちを睨んだ。
ひー!!触らぬ神(三蔵)に祟りなし!ここは逃げるに限る。
「ないっ!何にも無いです!外行ってきま〜す♪」
そして現在に至る。
空は高く綺麗な青空が広がっていて、所々に白い雲が島のように浮いている。上空では多少風が吹いているのか、島のような雲がゆっくりと流れてその形を微妙に変えてる。
こーゆー天気のいい日に部屋にいるのってもったいないよなぁ・・・悟浄と八戒が早く戻ってきたらまた何処かピクニックにでも行きたいな。
勿論三蔵と悟空も一緒に・・・何て空を見ながらボーッと考えてたら部屋の中から三蔵の怒鳴り声と、何か物が倒れるような音が聞こえた。
部屋の中で何が起きたんだ!?
「!その馬鹿を捕まえろ!!」
「えっ!?」
「わ―――――っ!どいてー!!!」
「えぇ――っっ」
どしっと言う音と共にあたしの体に向けて三蔵の部屋の窓から降ってきた小柄な体、う・・・重いよぉ〜。
「ゴメン!大丈夫か!?」
うっすら目を開けると悟空が心配そうな表情を浮かべながら一生懸命あたしの体を揺すっている。
悟空ぅ〜本物の怪我人はこんなに揺すると余計容態が悪化するって・・・という位の勢いで揺すってくれた。
取り敢えず体を起こして悟空に一声かけようとしたらそれよりも早く悟空は立ち上がると一目散に駆け出し、塀をよじ登り始めた。
「悟空?」
「!本当にゴメンな!!」
「待ちやがれ、こっの馬鹿ザル!!」
あたしの頭上を何か黒いモノが悟空に向って放り投げられた。
それはゴトッと言う音を立てて塀の手前に落ちたんだけど、じっと目を凝らして見たら・・・もしかして、文鎮?
「いくら悟空でもあんなの当たったら死んじゃうよ?三蔵。」
「馬鹿はそう簡単に死なん。」
うっわーキッパリ言い切ったよ、この人。そういう問題か!?
舌打ちをしながら窓を乗り越えて三蔵があたしの隣に腰を下ろした。
「何かあったの?」
「・・・いつもの事だ。それより怪我はねぇか?」
えっ!?三蔵が心配してくれてるの?
あまりの嬉しさに声が震える。
「え・・・あ、うん。大丈夫。」
「お前に何かあるとあいつ等が煩いからな。」
あ、そっか・・・そうね、あの二人は本当に心配性だからなぁ。
あたしに何かあると今じゃ飛んで来てくれるもんね。
そのまま二人とも声を発せずただ時間だけが過ぎて行った。
だんだん沈黙がって言うか空気が重くなってきた。
何か話した方がいいのかなぁ?でもヘタに話しかけると煩いとか言われそうだし・・・。
「何を考えている。」
「え?」
「さっきからボーッとアホ面さげて空見てたじゃねぇか。」
「あ、うん・・・って三蔵見てたの!?」
「あ?」
「だから・・・その・・・見てたの?」
「・・・あぁ。」
うっわー口開けてボーッとしてたの見られてたの!?恥ずかしい!
しかもアホ面ってあたしどんな顔してたの!?
恥ずかしさのあまり熱を持って赤くなってしまった頬を手で隠すようにして少し俯くと、三蔵はそれとは反対に両手を後ろについて心持ち体を後ろに反らして空を見上げた。
「いい天気・・・だな。」
「うん、いい天気・・・だね。」
三蔵の声に導かれるようにあたしも再び空を見上げた。
その時一羽の鳥が空を飛んでいくのが見えた。
小さな翼を精一杯広げて飛んでいくその姿がその時はなぜかやけに神聖に思えた。
ただ青空の中を鳥が飛んだだけなのに・・・なんでそんな事思ったんだろう。
三蔵が隣にいるといつも見ているモノも違って見えるのかな?
そんな穏やかな空気を破るかのように一人の男の人の声が三蔵の部屋の中から聞こえてきた。
「三蔵様?三蔵様、いらっしゃいませんか?」
どうやら三蔵を探しているらしい。
しかし隣に座っている三蔵は我関せずといった様子。
部屋の中からは相変らず必死な様子の男性の声。
思わず心配になって小声で三蔵に声を掛けようとしたら、あたしの口元に三蔵の手が伸びてきてそのまま口を手で塞がれた。
悟浄ほど大きくなくて、八戒ほど細くない・・・三蔵の手。
そのままずるずると窓の下まで体を引き摺られ、壁に背中を押し付けられると至近距離に三蔵の顔が近づいてきた。
「!?」
(静かにしてろ・・・いいな?)
そう耳元に囁かれた瞬間、体中の力が抜けた気がした。
力を振り絞ってコクコクと頷くと、三蔵は自分も壁を背にして部屋の中にいる声が遠ざかるのを待った。
声は頭上の窓から聞こえてきた後、大きなため息と共に部屋の中に戻り、やがて部屋の扉が閉まると同時にその声も聞こえなくなった。
「はぁー・・・緊張した。」
「こんなモンで緊張してどうする。」
「・・・するもん。」
ちょっと脹れてソッポを向く。
人に見つからないように隠れるのも緊張するけど、今日は三蔵があんなに至近距離にいたから緊張したんだもん。
あんな近くで三蔵の目を見て緊張しない方がおかしいって!!
でもそんな事本人に言えるはずもなく話をそらすように、さっきの声の人について尋ねた。
「でもいいの?あの人一生懸命三蔵の事、捜してたよ?」
「かまわん、どうせいつもと同じだ。」
「同じって?」
「悟空が何を食ったとか、何を壊したとか、書類の捺印漏れだとか、近隣の説法の予定だとか・・・くだらねぇことばかりだ。」
「でもお仕事でしょ?」
「今日の俺の仕事はもう終わった。あとはあいつ等が仏像を持ってくりゃ終わる。」
「・・・そっか。」
三蔵がそう言うならいいか・・・と思うと急に肩の力が抜けた。
しかしすぐにぽふっと言う音と共に、右肩に妙な重みを感じた。
まさか・・・と思いながらゆっくり、本当にゆっくり右側を振り向くと頬に金色の髪が触れた。
「さっさんぞぉ!?」
「煩い、暫くじっとしてろ。」
「で、でもっ」
「昨夜から仕事が立て込んでてあんまり寝てねぇンだ・・・5分でいい、大人しくしてろ。」
そう言うと三蔵は腕を組んでゆっくりと瞼を閉じた。
さ、三蔵が隣で寝てる!?
驚きのあまり硬直したあたしの耳に、数分もしない内に規則正しい呼吸が聞こえ始めた。
悟浄や八戒とはこういう軽いスキンシップをした事がないとは言わない。
身近にいるぶん二人に慣れた今では多少体に触れる事もある。
でも三蔵とは全くと言っていいほど無い。
ドキドキしすぎて止まりそうな心臓と、血が上りすぎて倒れてしまいそうな体を必死で支えてチラリと視線を三蔵へ向ける。
三蔵の寝顔が見れる事なんてそう何度も無い・・・はず。
「本当に・・・寝てる?」
そっと左手で三蔵の髪に触れるが、三蔵の体は先ほどから小さく上下に揺れていて起きているようには思えない。
「髪・・・サラサラだ。」
日に透けるとまるで金の糸のように輝く金髪が、風が吹く度にサラサラとなびいている。
機嫌が悪いと増える眉間の皺も今は全く無い。
「・・・お疲れサマ、三蔵。」
調子に乗って髪を撫でていたら三蔵が少し眉間に皺を寄せ始めたので、慌ててその手を自分の膝へ戻して先程と同じように空を見上げた。
空に流れていた雲は何時の間にか無くなっていて、代わりに綺麗な青が空一面に広がっていた。
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眠っていたお話が勿体無いので引っ張り出して来ました〜♪
それにしてもどうしてだろう?穏やかな三蔵の話を書こうとするといつも空が出てくる(苦笑)
この話、実は三蔵バージョンがあります♪(以前天界でやったのと同じ事を懲りずにやってます)
いや、どうしても書きたくって同タイトルでUPしてあるので良かったら合わせてお楽しみ下さい。
それにしても…文鎮を投げつけるのはどうよ!?
いくら悟空だって死んじゃうんじゃない!?とか思いながら投げつけるシーンを書いたのは私です(笑)